若者文化・若者意識
「東大ひきこもり」
9月21日

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就職怖い東大生「赤門ひきこもり」
 超モラトリアムで先延ばし   

東大に入りさえすれば就職は楽勝な時代は終わった。   
就職活動で初めて味わう挫折感。 
少しでも長く  東大生でいたいと、就職に及(およ)び腰(ごし)になる学生もいる。  


 去年できたばかりの東京大学法科大学院に在籍(ざいせき)するコウイチさん(24)。卒業後は司法(しほう)試験を受けて、弁護士資格を取得したいと 思っているが、実は法律にはあまり興味がない。  
 最初は、政治学の研究者になろうと考えていた。だが、修士課程(しゅうしかてい)の入試で、2回失敗。相談したゼミの教授から「編集者はどうだ」と勧め られた。  
 コウイチさんは、中高時代には司馬遼太郎(しばりょうたろう)や陳舜臣(ちんしゅんしん)の著書を読みふけり、やがて政治学関連の専門書へと興味を広げ た。 一人暮らしの部屋には、現在3000冊もの本がある。本が好きで「筆で生活したい」自分なら、編集者は向いているかもしれない。 去年一年で受けた 会社はマスコミばかり49社、うち37社が出版社だ。  
 
 しかし、堅(かた)い本の編集を希望するコウイチさんに、 出版社の反応は冷たかった。必ず言われるのが「その企画は売れると思いますか」の一言。結局行きたかった有名出版社だけでなく、ゼミの教授の推薦をもらっ た会社も落ちた。 三つの出版社から内定(ないてい)を得たが、法科大学院に進む道を選んだ。

 喜んで学費を出す親
  「不本意(ふほんい)な会社に就職するか、別の道を選ぶか。本音を言えば、弁護士より本を作る仕事がしたい。だけど内定をもらった会社に就 職しても、学術書の編集ができるかどうかはわからない。新しく大学院ができるなら、そっちもいいかと何となく考えました。司法試験に受かれば仕事ができる わけですし、」  
 関西の有名進学校から東大入学に成功したコウイチさんの進路選択には、親の意向が大きく関わっている。京大理学部を出て保険会社の働く父(57)に幼い ころから、「行くなら東大法学部」と言われ、育った。 専業主婦の母親(50)も、昔から弁護士か官僚(かんりょう)になって欲しいと言っていた。文学部 に行きたいというコウイチさんを泣いて止めたこともある。 そんな経緯(けいい)があったから、法科大学院進学を聞いた親は、喜んで学費を出してくれた。

 「なんちゃって 就活中 (就職活動中) 」  
 就職を避けたい超モラトリアムな東大生にとって、大学院は将来の選択を先延ばしにできる格好の「逃げ場」だ。 今回取材した大学院生には、就職しそこ なって進学したという人が目立って多かった。 どうせ、知名度の低い企業に就職したり、アルバイトをするより、東大の学生であり続けるほうが社会的に地位 も高い。それに、「世間体(せけんてい)が大事で、フリーターは駄目だ」という両親も、大学院に入るなら学費も出してくれる。とにかく、現在は両親がうる さいので、「なんちゃって就活」中ということで、その成り行きに任(まか)せている。